カテゴリ:絵本(日本) 35~40年弱前に読んだもの
以下覚えている範囲で物語を書き起こしてみました。
昔々、豊かに暮らす人魚がおりました。
人魚たちは宝の珠を守り生きていましたが、ある時、その珠を狙った海賊に襲われてしまいました。
仲間の人魚は珠を守るために一人の人魚に珠を託します。
この珠は大切なものだから何としてでも守り抜いて欲しいと。
海賊に追われる中、陸を見つけた人魚は、陸の上ならば襲われるまいと、命からがら陸に上がります。
そこに一人の漁師がおりました。
傷だらけの人ならざるものに驚いた漁師でしたが、ただならぬ雰囲気に人魚を助けようとします。
人魚は陸に上がれば海賊から逃げられると思っていましたが、海賊は二本足で陸を走り回り、足のない人魚にはもっと勝ち目がありません。
ここに隠れていろと岩場の影に人魚を残し、漁師が海賊に立ちはだかります。
海賊は力が強く、漁師は歯が立ちません。
人魚は漁師を助けようと珠を掲げながら叫びました。
珠は私が持っています。
欲しければ私についてきなさい。
海に飛び込んだ人魚は珠をちらつかせ海賊が自分を追うように仕向けました。
人魚は海の中であればもしかしたら逃げられるかもしれないと思っていましたが、海賊の泳ぎは早くもう逃げられないことを悟りました。
助けてくれた漁師のためにも珠だけは守らなければならないと強く思い、持っていた短刀を握りしめました。
とうとう人魚は捕まってしまいました。
人魚から流れた赤い血が目印となり、見つかってしまったのです。
「さあ、珠を出せ。
命だけは助けてやる」捕まった人魚は珠を持っておりませんでした。
「珠は逃げる途中で隠しました。
私は持っておりません」嘘をつけ!珠を出せ!海賊は叫びますが、なるほど人魚は服を着ておりません。
乳房からどっと流れる血と苦しそうな人魚を見た海賊はまさかと思いました。
そうです、人魚は自分の乳房を短刀でざっくりと切り、そこに珠を隠していたのです。
最後の望みが断たれた人魚は強い悲しみを抱きながら海の底に沈んでいきました。

X掲載:2025年10月



